2006年07月20日
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オルランドと銀河三重衝突事件

Written By: 遠野秋彦連絡先

 オルランドが軍事力を最も拡大した時期、つまり、宇宙艦を最も大量に建造した時期がいつであるか、ご存じだろうか?

 おそらく、最初に連想されるのが、何もない状態から惑星1つを抹消できるだけの戦力を短期間で作り上げた祖国防衛戦争(オーバーキル・ウォー)の時期だろう。

 あるいは、対等の強力な敵として出現したサリー人と強い対立関係にあった時代や、超銀河団の泡構造の向こうからやってきたもう1つの守護者との接触戦争を連想する者もいるかもしれない。

 しかし、これらの答えは全て当たっていない。

 では、誰を敵として、オルランド最大の軍拡は進行したというのだろうか?

 実は、この問い掛けそのものが誤っている。

 オルランドが最も大量に宇宙艦を建造したのは、銀河三重衝突事件の時であり、その時点で戦うべき具体的な敵は想定されていなかったのだ。これらの宇宙艦は、オルランドの母銀河に対して打ち込まれた2つの銀河を構成する星々を破壊し、衝突を回避するために建造されたものなのだ。

 銀河三重衝突事件の真相は、今もって良く分かっていない。しかし、ある日突然、オルランドの生まれた母銀河、つまり地球と太陽系を含む銀河に同時に激突するよう、2つの銀河が迫ってきた……などということが偶然に起こるとは考えられない。1つの銀河が迫ってくるだけなら偶然と言うこともあり得るが、2つの銀河が、同時に、しかも正反対の方向から激突して来るというのは、偶然では片づけられない現象と言える。しかし、偶然ではない……というところまでは予測できても、「誰がやったのか」という部分は今もって良く分かっていない。そもそも、銀河系を思い通りに位置に移動させ、思い通りの速度を与えることが可能な技術が、この世に存在するのかどうかも分からない。現在のオルランドならできるはずだ……と訳知り顔で語る者はいるが根拠は見あたらない。

 さて、当時のオルランドにはもちろんそのような技術はない。しかし、これが偶然ではないということは分かった。

 そして、オルランドはこれを全力を持って阻止すべき事件と受け止めた。

 我が故郷の銀河を守れ。

 その当時のオルランドとは、地球のみならず、地球を含む銀河系そのものの守護者的な立場に既に立っていたのである。

 衝突回避のための方策は、様々な案が検討された。

 最もストレートな対策として提案されたのが、接近する銀河の抹消であった。つまり、その銀河に属する一定以上のサイズを持つ全ての天体を破壊し、均一なガス雲にしてしまうということである。もちろん、ガス雲になっても質量が消えるわけではなく、銀河がそれと衝突すれば影響が発生する。しかし、天体の集団と衝突する場合と比較して、天体の軌道などに与える影響は遙かに軽微であることがシミュレーションで示されていた。これはこれで有効な対策と認識された。

 そして、これを実行するために、最大級の軍拡がスタートした。何しろ、銀河に含まれる天体を根こそぎガス雲に還元してしまおうというのだ。破壊すべき天体の数は、銀河1つで数百億にもなった。軍拡とは、それを実現するために必須要請された状況なのである。

 この時点でオルランドは恒星を破壊しうる砲を保有していた。ただし、それは全長約100kmになる100Kクラス戦艦の主砲であった。いかにオルランドが自己増殖する自動採掘工場システムを持っていると言っても、あまりに巨大であり、建造に資源を食い過ぎる100Kクラス戦艦の生産ペースには限りがあった。かといって、少数の100Kクラス戦艦が順番に天体を破壊して回ったのでは時間が掛かりすぎる。

 しかし、ここで必要とされたのは、あくまで100Kクラス戦艦の「主砲」であって、100Kクラス戦艦の全ての機能性ではなかった。たとえば、多数のクルーを乗せて長期独立行動するための都市機能は必要ないし、数十隻のバトルクルーザーを内部に収容しメンテナンスする内部ドック機能も必要ない。逃げることもなければ防御することもない天体1つを撃破するには、砲は1門あれば十分であって、数十門の主砲を1つの艦に持たせる必要もない。何より最も不要なのは、対等の敵と撃ち合うための強力な防御シールドである。攻撃対象の天体は、けして撃ち返してきたりはしないのだ。

 そこで、2Kクラスのバトルクルーザーの艦首部に、100Kクラス戦艦の主砲1門を装備するという案が浮上した。対地爆撃装備と、広範囲制圧用の拡散ビーム砲塔を外し、代わりにこれを取り付けるというのである。これは、リーズナブルな対策と言えた。対地爆撃装備はあまり使われることがなく、拡散ビーム砲塔は主砲のビーム収束度を下げれば代用品として使えたからである。

 そして、コストと資源の節約効果は絶大だった。100Kクラスと2Kクラスの必要資源の差は、けして100:2ではない。3次元物体である以上、必要資源の差は三乗で利いてくる。つまり、100^3:2^3=1000000000:8=125000000:1となり、1億倍以上の差が出るのである。もちろん、実際には様々な要因が絡むので、これほど極端な差は出ない。だが、100Kクラス戦艦の1隻の建造を取りやめることで、1万隻のバトルクルーザーを建造することができた……という話は漏れ伝えられている。

 この時期に建造されたバトルクルーザーが何隻であったかは明らかにされていない。その大多数は、人工惑星の奥深くの保管庫で一度も使われることなく眠り続けているとも言われる。しかし、数百億の天体を短期間で撃破しようという目標を立てた以上、1万隻程度で終わるとは考えられない。実際に何隻建造されたのかは分からないが、少なくとも、100万隻は建造される予定だったのではないだろうか。

 ちなみに、祖国防衛戦争(オーバーキル・ウォー)のオルランド最盛期に地球側の宇宙艦隊が保有した艦艇の総数は1000隻を超えるとされる。しかし、消耗分を見込んでも、建造された宇宙艦の総数は2000隻を超えることはないだろう。

 つまり、銀河三重衝突事件におけるオルランドの軍拡は、祖国防衛戦争(オーバーキル・ウォー)時代とは桁がいくつも違うということである。

 恒星破壊砲を装備したバトルクルーザーはC型と呼ばれた。厳密に言えば、C型には、A型やB型からの改造によるC1型と、全く新規に建造されたC2型が存在する。その他、改良型のD型やE型も存在するとされるが、具体的にそれが何かは確認されていない。C型より前とC型以降は、艦首部の形状が全く異なるため、C型以降であることはすぐに分かるのだが、その先はなかなか伺い知ることができない軍事機密の世界である。

 さて、いかにオルランドが宇宙の資源と優れた技術を持ち、自己増殖する自動採掘工場システムをフル稼働させて宇宙艦を建造させようと、そこには超えがたい限界が存在する。

 宇宙艦の大量建造は、オルランドとしても相当背伸びをした無理な活動だったと言える。またいくら宇宙艦を自動運用可能にしたところで、それに指示を出す者は必要とされるが、オルランドの人口には限りがある。

 無理に無理を重ね、限界を自らの努力で克服することで、オルランドは1つの銀河を抹消する目処を立てたと言われる。

 だが、もう1つの銀河に対処するための手立てについては何の進展も無かった。更に、衝突コースにある銀河に派遣された調査隊が、その銀河の住人とおぼしき宇宙船と遭遇し、自らの領域を侵す侵入者として攻撃される事件が起こった。向こうの銀河にも住人がいることが判明したことで、「そもそも銀河を抹消するという手段は正しいのか」という疑問も生まれた。

 結果として、オルランドは敗北を自らに対して宣言した。

 オルランドは銀河三重衝突に対して、何ら回避のために手段を執らないことを決めた。どの銀河を破壊しようとも、誰かの未来を閉ざすことになる。ならば、後は運を天に任せ、生き延びる者達が生き延びるという主義を選択するしかなかった。

 そして、オルランドは人工惑星ごと、異次元世界を巡る旅に出て、この宇宙から消え去った。

 ここで、オルランドはこの宇宙に残留し、可能な限り全ての生命を助けるべきだったと言うのはたやすい。

 しかし、このときのオルランドは、もはや彼ら自身が偽装を試みた「大宇宙の守護者」を気取る状況ではなかった。彼らは、銀河三重衝突という状況に対し、白旗を掲げた敗残者集団であった。

 そして、地球は壊滅的な打撃を受けたが、人類の多くは自らの力で破滅を乗り切り、宇宙の各所で新しい文化を花開かせていくのである。

(遠野秋彦・作 ©2006 TOHNO, Akihiko)

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